読んでつくる知の体系

読んだ本、お勧めしたい本を紹介。ノンフィクションが多め。

『人間を磨く 人間関係が好転する「こころの技法」』


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「人間を磨く」。人生を通して、自分という人間を磨いていく。あたかも、玉を磨いていくと、曇りや汚れや傷がとれていくように、自分の人格を磨いていくと、非や欠点や未熟さがなくなっていく。そうして、その光や輝きが、周りの人を惹きつけ、多くの人が集まってくる。「人間を磨く」とはそうした響きがある。

 

しかしおごりなく己を見つめれば、人格の完成には程遠く、未熟さを持って生きてはいないか。世の言葉に「知識とは、風船の如きもの」というのがある。風船が膨らめば膨らむほど、外の世界と触れる面積が大きくなるように、知識が増えれば増えるほど、まだ見ぬ世界と触れる面積が増えていく、わからないことが増える比喩である。それは「人間成長もまた、風船の如きもの」でないであろうか。人間として、成長すればするほど、新しい発見をし、自分の未熟さを痛切に感じるようになる。

本書は「人間を磨く」とは単に「非のない人間」を目指すことではなく、「非」や「欠点」や「未熟さ」を抱きながら、周りと良い人間関係を築いていく方法を語る。

 

本書の「欠点」についての章が印象に残った。

”本来、「欠点」は存在しない、「個性だけが存在する」”という視点を持つことが大切。分かりやすい例えが紹介されている。それは「発酵」と「腐敗」という言葉である。「発酵」といえば、牛乳を発酵させると、ヨーグルトができる。一方、牛乳を「腐敗」させると腐った牛乳ができる。その「発酵」と「腐敗」の違いは何か。

辞書で調べると、

「発酵」:微生物が有機物を分解し、アルコールや炭酸ガスなどを生じる現象。

「腐敗」:微生物が有機物を分解し、悪臭を放つまでになること。

こう見ると、どちらも微生物が有機物を分解することに変わりはない。が、人間にとって有益なものを「発酵」と呼び、人間にとって有害なものを「腐敗」と呼んでいる。「科学的な客観性」を超えた「人間中心」の主観的な視点であることに気づかないだろうか。そして、「長所」と「短所」を論じるときにも、この「人間中心」な主観的な視点が用いられている。

つまり、人間に有益なものを「発酵」と呼び、有害なものを「腐敗」と呼ぶのと同じように、人は自分にとって好都合なものを「長所」と呼び、しばしば、不都合なのもを「短所」と呼ぶ。

”ひとりの人物の性格は、それを見る立場と、おられた状況によって、「長所」にもなれば、「短所」にもなる。そう考えるならば、実は、世の中に、本来、人間の「長所」や「短所」というものは存在しない。存在するのは、その人間の「個性だけである」”

ある人の行動を見て、良い意味でその人の性格を捉えることもできれば、悪い見方でその人の性格を捉えることもできる。その’’捉え方’’が違うだけで、性格は1つしかない。人はその人の’’個性’’が好都合な形で発揮されたとき、それを「長所」と呼び、不都合な形で発揮されたときに、それを「短所」と呼んでいるにすぎない。

よく見られる「長所」と「短所」の議論に、新しい角度で書かれている本書には、新しい発見が他にも多くあった。また読み返したい一冊である。