読んでつくる知の体系

読んだ本、お勧めしたい本を紹介。ノンフィクションが多め。

『アート・スピリット ロバート・ヘンライ』


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’’芸術を学ぶ者は最初から巨匠であるべきだ。つまり、自分らしくあるという点で、誰よりも抜きんでていなければいけない。いま現在、自分らしさを保っていられれば、将来かならず巨匠になれるだろう。’’

 

天性の教師であり、言葉による意思伝達の才に恵まれていたばかりか、人間性にもすぐれ、アメリカの画家の中でも、大勢の信奉者をひきつけた者は、ロバート・ヘンライをおいてほかにいない。

冒頭の言葉も、このヘンライが美術学生たちに残した言葉の一部だ。

 

たくさんの生徒たちに愛され、美術に関する本を書いて欲しいと請われ、書かれた本。

全体の繰り返しが多く、同じことを取り上げて別のアングルから見たり、異なる文脈で書いてある。部や章といった区別もなく、小見出しもない。途中から読むと「何の話の続きだっけ?」と思ってしまうほど。しかし読み進むと、また話に没頭してしまう。

 

本書は、ヘンライが絵を描くときに気をつけている筆遣いから心構え、バランスやアイディア、またや「情熱」など美術に感じていることを書かれている。

特に「眉毛」について書かれているところが面白い。

髪の毛が出す意味、眉を描くときの顔の筋肉の動き、ものすごく細かいところまで気を使い、注意観察しながら、全体の描く流れを決めてから筆をキャンパスに置く。

そして、「眉毛は生き物である」と。

「〇〇は生き物である」シリーズで聞いたことのないフレーズだ。

顔の1パーツとしての「眉毛」は、敏感な反応をし、感情の変化にともなって知性のひらめきを見せるようになるという。

このようなかたちで、「背景」の話をされたり、「色彩」の話をされたら後にはひけなくなる。今度はそうきたか、と。

 

ときにヘンライは本書のなかで、画学生たちに教師としてたくさんの言葉を送っている。いくつかが本書にも載っていたので引用したい。

画学生がヘンライに一枚のスケッチを見せるシーン

”きみの素描の腕前がどれほどすぐれているのかを見たいわけではないー興味があるのは技術ではないのだ。きみが自然から何を得たのか?なぜこの主題を選んだのか?きみにとって人生とは何か?きみが見つけた根拠と原則はいったいどんなものか?どんな推論を立てたのか?その結果、何が見えたのか?そこからどのような興味と喜びが得られたのか?素描の技術など、私にとって最も関心の遠いものである。”と。

技術は時間をかければ誰にだって身につけられる。しかしその絵に込める自身の哲学や感情をどうやって表現するかをヘンライは画学生たちに教える。

 

”作品にとりかかるチャンスを何度も経験することの価値を見くびってはいけない。”

 

今から90年以上まえに書かれたこの本の言葉は、今も色褪せてはいない。

美術は、美術学生や芸術家だけでなく、すべての人に深い関わりがあるとヘンライは信じてきた。今の我られにも教わることが多いのではないだろうか。