読んでつくる知の体系

読んだ本、お勧めしたい本を紹介。ノンフィクションが多め。

『読書論』 小泉信三著


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 ”人生は短く、書物は多い。一生のうちに読みうる書物の数は知れている。それを思えば、いつまでも手当たり次第に読んでいるわけにはいかない。どうしても良書の選択が必要になる。何をいかに読むべきか。”

 

今回も古い「読書論」の本を読んでいく。この本は戦後間もなく書かれた。前回紹介した『本を読む本』よりかは、最近になるのか。

筆者は、慶應義塾大学を卒業して間もなく、西洋留学を命じられ、イギリス、ドイツ、フランスで暮らした。帰国後には経済学および社会思想学の講義を担当する。そして文藝春秋の誘いから、「読書雑記」と題するものを書き、のちに単行本化する。そのときに取り扱った本の著者を上げると、マルクスバーナード・ショー福沢諭吉アダム・スミス、エドワード・グレイ、夏目漱石森鴎外ウィンストン・チャーチル幸田露伴、ミカエル・バクーニンなどがある。およそどんなものを好んで読んでいたかがわかるだろう。著者が語る読書のことも、およそ今挙げたような経歴に基づいて書かれたいる。日本と外国の考えを両立しているという点でだ。

 

本書の「如何に読むべきか。」の章で、繰り返し読むことの大切さを説く。

”特に進めたいのは難解と平易とを問わず、同じ本を再読三読することである。実際相当の大著を、ただ一度読み過ごしたばかりで理解しようとするのは無理である。難解の章句が一読過では解せられない問いう他に、一回の読了ではどうしても書籍の部分に囚われて、それと全体の関係がわからない。二度あるいは三度読んでみて、始めて著者の思想の全体、その全体における個々章節の意義または重要性というものが把握される。”

そして「読書百遍義おのずから通ず」といい、西洋では「Repetitio est mater studiorum(繰り返しは学問の母)」という格言がある。難解な文章でも、反復熟読で理解できると言わんとしている。再読三読すべきなのだ。

さらにやや時を隔ててから同じ本を読み返したら、そこに自分の成長を感じられたことはないだろうか。少年が柱に自分の身長を跡をつけて測り、自分の成長を知るように、

同じ本を時を隔てて読んでみることは、自分で精神的成長を知るゆえんである。以前は漫然とした読み方で気づけなかった重要な箇所を発見できたり、傍線などを引いた箇所を読み直すと、空疎な美辞麗句に過ぎなかったり、己の幼稚さを知り、今は正しい眼を養えていることを自覚する。

”誠に無上の楽事と称すべきものであり、世の読書人たるものは、いずれもこれについて無数の語るべき話題を持っているであろう。”

 

読書が好きで読書をしている人が書いた本である。この本はそのように読者を選ぶかもしれないが、ハマればとても興味深い一冊になるだろう。ぜひ『本を読む本』と一緒に読んでみてほしい。