最悪の人生、やり直せるのか?『復讐者マレルバ 巨大マフィアに挑んだ男』
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1980年代から90年台にかけてシチリア・マフィアの主流である、コーザ・ノストラに反旗を翻し、数年間で300名以上の犠牲者をともなう抗争を引き起こしたマフィアがあった。スティッダだ。
本書はそのスティッダのヒットマンとしてコーザ・ノストラの有力候補を次々を血祭りにあげ恐れられた、ジュセッペ・グラソネッリの回想録である。物語上ではアントニオ・ブラッソとして登場する。
復讐者アントニオ
簡単に物語の説明を。
シチリアの港町、カーサマリーナで生まれ育ったアントニオは、幼い頃からワルだった。盗みを働き、暴力沙汰にはよく巻き込まれるし、手のつけられない子ども時代を送った。町のお尋ね者になったアントニオはドイツへ逃走し、ハンブルクでいかさまギャンブラーとして名を知られるようになる。
21歳になりお国の兵役が終わり、故郷の家族の元、シチリアへ里帰りをした時に事件は起こる。最愛の祖父を含む一族の人間がコーザ・ノストラの襲撃によって抹殺されてしまう。その後もアントニオや父親がマフィアに狙われ(過去にマフィアとのいざこざがあったと父親に知らされ)、愛する一族を守るためにコーザ・ノストラとの抗争に打って出る。スティッダと呼ばれるマフィアに対抗する同盟をつくり、アントニオの復讐劇が幕をあける。
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哲学者との出会い
一族が襲撃しされ、復讐心に燃える。物語もどんどんスピードを上げていく。ところが復讐が終わると、アントニオは逮捕され刑務所内の話になる。復讐が実行されるまでは、興奮して読み進めていたが、務所勤めの話になると、物語も落ち着いていく。地獄に送られ、絶望しきった感情が伝わり、途中読みたくなくなった。あの勢いのあったアントニオはどこへ行ってしまったのか?少し冷めた感情が沸き起こった。
復讐劇が成功するのか、失敗するのか、どう物語が終わるのかだけ考えていたけれど、ここでまったく裏切られた。物語の後半はアントニオが逮捕され、無期懲役を言い渡されるところから始まった。
逮捕された時は小学生並みの学力だったのが、塀の中でアントニオは中学と高校の卒業資格を得て、大学に進み哲学の教授に出会う。
教授との出会いには俺の考えを大きく変えた。知っているつもりで本当の意味ではわかっていなかった物事を俺は意識するようになった。そして、人間関係の重要さを直ちに理解した。既定の条件を変化させることができる唯一のもの、それが人間関係なのだ。
アドラー心理学でも「すべての悩みは対人関係から生まれる」「変わらないものを変えようとする努力よりも、変えられるものを変えようと努力しなさい」相手を自分の思った通りに変えることはできないのだから、まずは自分から変わらないといけない。そして自分が変われば、周りも変わり始める。アドラーも元は哲学者であり、おそらくアントニオがあった哲学の教授もこのような教えに、少なからず影響を受けていただろう。
読み書きも十分でき、アントニオが本書を出す前ずっと考えてきたことがある。
どのような社会であれ、合法性を維持するためにひととひとをつなぐ絆が極めて重要になることを知った。そうした絆のおかげで私はかつての狭い視界と旧習から解放され、現実を批判的かつ分析的に見ることができるようになったのだ。
過去に重罪を犯したにせよ、のちに悔い改めた罪人を社会に戻す勇気のない制度を本当に民主的と呼べるだろうか? 国は、私がすっかり別人になり、もはや危険人物ではないという事実を理解するべきなのだ・・・もしも危険でないなら、私を社会復帰させるのが本当ではないだろうか?
知恵を持って、今自分のいる国で起こっている問題(服役囚の人権問題)に目を向け、そのことを世界に発信している。死刑廃止を最近は叫ばなくなった日本で理解し難い話かもしれないが、だからこそ考える材料になる。
マフィアとの抗争物語かと思っていたが、いやはやこんな深いテーマの話になっているとは・・・一本取られた。