読んでつくる知の体系

読んだ本、お勧めしたい本を紹介。ノンフィクションが多め。

『ジェネティック ラウンズ』


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『臨床遺伝専門医』

この職業はどういった職業なのか。砕いた言葉で説明するなら、「遺伝を専門とする現場を重視したカウンセラー」。その実態とは。

小さな手がかりから、名探偵のように病気を掘り当てていく。ある時は病気の子どもだけでなく、両親や家族のよき理解者として、身体面だけでなく精神面でも支えとなる。倫理的なジレンマに直面し、一人の人間として苦悩することもあれば、ともに喜びあうこともある。本書は医療の現場で出会った患者と家族をめぐる物語である。

 

母親と祖母が40代前半に乳がんで亡くなり、自分も同じ運命をたどるのかと不安になる20歳の女性がいる。遺伝子検査の結果、乳がんを起こす確率が85%、卵巣ガンの可能性が30%であるとわかってしまったら、彼女はどう対処するべきなのであろうか。発ガンのリスクを抑えるべく、直ちに両方の乳房を切り取る処置をするべきなのか、子宮も卵巣も一緒に摘出するべきなのか。あるいは専門医たちが検診だけをするべきなのか。発ガンの可能性を知った上で、彼女の心理的影響はどうであろうか。専門医たちが、その後の最善策をちゃんと判断できない状態で彼女に検査するのは正当なこのなのだろうか。このいくつもの選択肢を潰しながら、答えが難しいような質問が日々ところ狭しとやってくる。

このような事例のように、倫理的なジレンマを扱うもの、病気の謎を探索するもの(名探偵シャーロック・ホームズのようでした!)、医学において人生の側面を見るもの、にわかれた話で臨床遺伝専門医の全てを見ることができた。

 

医学が進歩することで遺伝子の働きの理解が進み、解決できる事例も増えているという。

かつては遺伝医療分野において、羊水検査(妊娠子宮に長い注射針に似た針を通して羊水を検査して、染色体や遺伝子に問題がないかを検査する)は「探して葬ること」だと考えられてきた。羊水細胞を使って検査をおこない、異常が発見された場合は治療法がないため、夫婦には中絶するか、深刻な病気を持つ赤ん坊が生まれる運命であることを知りなら妊娠を継続するかの極めて少ない選択肢しかなかった。しかし遺伝の飛躍的進歩によって、出生前に遺伝疾患を見つける能力とを合わせれると、生まれてくる子どもがどの確率で遺伝疾患を持つかの検討がつき、子どもを産む夫婦の決断にも余裕が出る。

遺伝子検査で変異を見つけることも重要であるが、臨床現場で感じたことを確認し、家族に遺伝カウンセリングを提供するということにおいても大切なことなのだ。

”遺伝子検査が治療に役立つことは滅多にない。ほぼすべての遺伝医療では、医者が医者が診察室で家族とともに座り、家族の歴史に耳を傾け、診察をおこない、パズルを一つ一つつなぎ合わせる努力を続けている”