道のりの違いを楽しむ 『作家の履歴書』
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小さい時から物語を書くのが好きで、作家になった人。
初めから作家になりたいなど思ってもみなかった映画監督志望の彼が、運命と呼べる小説と出会い、作家になった人。
作家というゴールに向けて、様々な道筋をたどってきた21人の作家の、「仕事を志したきっかけは」「あなたの人生の転機は?」など人生の岐路を尋ねるお決まりの質問から、「収入の管理は?」「作家としての長所・短所」など具体的な質問にまで答えてくれる本書。
私の大好きな北方謙三さんもこの本に登場する。
高校三年生のときに肺結核と診断されたこと。「就学不可」と言われて、これではまともなところには就職できないと思った。だけど文学の世界なら、肺結核患者は歴史的にエリートだからね。
ハードボイルド作家ならではのコメントだなぁとますます好きになってしまう。
北方作品の中でも好きな『水滸伝』や『三国志』は、人が簡単に亡くなる。主人公かと思っていた人物が、コロッと敵にやられてしまったり。本書には、そんな作品の死生観が載っている。紹介しよう。
タクラマカン砂漠で死にかかったこと。その時、おれの後ろを走っていて、おれが生きてたっていうんで喜んでくれたやつが、その年の暮れ、パリ・ダカールのレースで死んだ。春になってパリに行き、当時の仲間と会ったんだけど誰もそいつの話をしない。どういうことだと詰め寄ったら、隊長が「肉体は死ぬけど、あいつは心の中で生きている」って言うんだ。あの時、もしタクラマカンで死んでたって、お前はおれの中で生きてるって。
人は生きて死ぬ。どうやって受け止めるかっていったら、生き残った人間にできるのは忘れないってことだけなんだよな。
義兄弟が死に、弟は心の中で生き続けている、と奮起する頭領。
愛する者との永遠の別れ、「おれは強い男だ、女なんかに心が動くことがあるか」と口にはするが、何度も妻の記憶がよみがえる。忘れたくても忘れられない将軍。
生きている者と、亡くなった者との近さ、心の距離感を上手く読者に伝える北方作品には、こういった”死生観”があったのか、気づかされる良いきっかけになった。
あなたの知っている作家さんも本書に出てくるのでは?